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ガスリー正しい採血法

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2011年02月10日(Thu) 16:43 by drharasho

雑誌「助産師」Vol.65, Vol.1, 2011に
「ガスリー正しい採血法」という一文を載せて頂きました。

新生児マススクリーニングが米国のガスリー博士(Dr. Guthrie)により
開始されたときは、多くの新生児から簡単に採血し、
検査機関への送付も容易ということから、
赤ちゃんの足の裏から(足底採血)特定のろ紙に採血する、
というシステムが採用され、新生児マススクリーニングが
世界中に普及していく大きな原動力となりました。

そこでその採血用ろ紙を「ガスリーカード」といったり、
採血そのものを「ガスリー法」といったりしています。

しかし、新生児マススクリーニングが考案されてから約50年がたち、
また日本で全国一斉に公費(税金)により開始されてから、
30年以上経った現在、ろ紙に採血する意味が忘れられ、
単に、採血用ろ紙に「血液がついていれば」それで良い、
という誤解が蔓延している恐れがでてきました。

そこで、もう一度、「正しい採血法」を
まず助産師さんに知って頂こうと考え、
投稿させて頂きました。

投稿した原稿を載せておきますので、
参考にして下さい。

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ガスリー 正しい採血法

原田正平
独立行政法人 国立成育医療研究センター 成育政策科学研究部 成育医療政策科学研究室長
日本マス・スクリーニング学会 精度管理担当理事

はじめに


 ガスリー法、あるいはガスリー濾紙として知られている「ガスリー」という言葉は、米国の
Guthrie(ガスリー)博士が世界で最初に、新生児マススクリーニング(mass-screening、MS)
の方法を確立、実行し、実際に世界中に広めたことに由来します1)。「ガスリー」を広く新
生児MSと理解して頂き、なぜ正しい採血法が必要なのか、そもそも正しい採血法とは何か、
ということについて解説します。

新生児マススクリーニングとはなにか

 新生児MSの対象となる疾患は、1)一定の発見頻度、2)発症前に発見できる、3)非侵
襲的な検査、4)再現性のある検査法、5)コストの安価な検査法、6)有効な治療法がある、
などの条件を満たすものとされています。日本では1977年度に公費により全国一斉にMSが
開始され、当初はフェニルケトン尿症(PKU)など先天代謝異常5疾患が対象となり、1979年度
に先天性甲状腺機能低下症(CH)、1988年度に先天性副腎過形成(CAH)が加わり、1992年度
にヒスチジン血症が除外されて、現行の6疾患体制となっています。

採血日齢が決められた理由

 PKUなどアミノ酸代謝異常症の場合、母乳(あるいは人工乳)中のタンパク質が消化、吸収
されてアミノ酸となり、体内で別の物質に代謝される過程が障害されるため、代謝されないアミ
ノ酸が体内に蓄積し、濾紙血中濃度が高値となります。そのため、哺乳が確立した日齢5日前後
(出生日が日齢0日)が、適切な採血日とされました。未熟児などで、哺乳量が十分となった後
に2回目の採血が必要なのは、このような理由によります。
 CHの場合、甲状腺内での甲状腺ホルモン産生が低下し、そのnegative feedbackにより下垂
体から甲状腺刺激ホルモン(TSH)が分泌され、TSH高値が疾患発見の指標となります。こ
こで注意が必要なのは、出生直後の寒冷刺激などでTSHサージという現象が起こり、全ての新
生児が一時的にTSH高値となることです。その後、徐々にTSH値は低下し、日齢5日ころに
なると患児と区別が可能となるため、PKUと同時期の採血が適切とされました。
 CAHは、他の疾患より早期発見が必要なこともあり、諸外国では日齢3日前後の採血が適切
と報告されましたが、日本では一緒に1回の採血ですませるため、日齢5日より遅くならないこ
とが重要です。

正しい採血法が必要な理由

 濾紙血中の物質濃度を測定するには、まず直径3mmの円形に打ち抜き(パンチし)ます。こ
のパンチ部分に含まれた血液中の物質量を測定し、血中濃度に換算しています。採血用濾紙は、
正しい手順で血液が滴下され十分自然乾燥された場合、ほぼ一定量の血液を含むように精密に作
られています。
 そのため、濾紙の裏まで十分しみ通るように採血されないと、濾紙に含まれる血液量は少なくな
り、結果として低濃度に測定されます。逆に、二度付けなどで濾紙に含まれる血液量が多くなる
と、本当は正常値であるのに高濃度と判定され、無駄な追加の採血や時に精密検査に回ることに
なります。
 その他、加熱や汚染を避けるなど、採血用濾紙の保管、採血前後の取り扱いには注意が必要です
が他の文献2)を参考にして下さい。

標準的採血方法について


 新生児MSは原則として、全ての新生児が対象となりますので、医師だけでなく、助産師、看護
師、検査技師など様々な職種が採血を担当しています。そのため、新生児への負担が少なく簡便、
安全な採血箇所として、どの国でも足蹠(そくせき)外縁部からの採血(以下、足底採血)が
標準的です。
 採血の手順は以下のようになります。
1)哺乳後2時間前後の沐浴後が適しており、
2)採血用濾紙(取り違えの無いように母親名等は記載しておく)、消毒用アルコール綿、穿刺器具
(ランセット)、滅菌ガーゼ、止血用絆創膏等必要物品をそろえ、
3)左手(利き手の反対側)で新生児の足関節を保持し、右手のランセットで足蹠外縁部を穿刺する、
4)最初の1滴は滅菌ガーゼで拭き取り、その後、(搾らずに)自然に穿刺部から滴下する血液を
○印の部分に吸収させる、
5)濾紙は足底になるべく接触させず、○印を越え裏面に十分しみ通るまで採血するが、二度付
けはしない、
6)採血後は滅菌ガーゼで止血し、絆創膏を当てておく、
7)採血後の濾紙は、汚染されないよう取り扱い、高温多湿を避け、直射日光に当たらない場所で、
水平に保持した状態で重ねないで自然乾燥させる、
8)十分乾燥した後は、ただちに専用封筒に入れ、その地域のスクリーニング検査機関に送付する、
9)まとめて送付するためなど、採血後、長期に保管することは厳禁である。

足底以外からの採血について

 平成19年度の厚生労働省研究班の調査3)では、札幌市、埼玉県、愛知県の3地域の調査で、
一般新生児で足底からが61~78%、手背5~8%、いずれか9~14%、低出生体重児では足底
57~75%、手背5~7%、いずれか18~30%でした。毛細管使用も、一般新生児で5~7%、
濾紙に直接か毛細管いずれか14~24%、低出生体重児で5~8%、いずれか19~26%という
結果でした。
 毛細管を使用すると多くの測定項目で低値となりました。また採血部位よって測定値が異なる可
能性も示唆され、今後、全国的な調査が必要とされています3)。
 1990年代の終わり頃から、新生児、未熟児への様々な医療行為において、疼痛刺激を極力避ける
ようにという考え方が普及し始めています。手背採血が検討され始めたのも、より疼痛が少ない
という報告4)が一因となっています。しかし、これらの研究では疼痛軽減だけを検討しており、
足底採血と手背採血での濾紙血中測定値の違いは全く考慮されておらず、現状ではMSのための
採血としては推奨されません。

まとめ

 新生児MSのための採血は、日齢4~5日にランセットで足底の外縁部を穿刺し、毛細管は使
用しないで、直接、採血用濾紙に滴下するように行うのを標準とします。

文献

1)原田正平:新生児マススクリーニングの現状と21世紀における課題、小児保健研究 65(3):
391-397, 2006
2)梅橋豊蔵:濾紙血の採取法・採血時期・保存法、日本マス・スクリーニング学会誌
8(Supplement2): 24-27, 1998
3)河地豊ら:採血手技によるマススクリーニング検査データの検討、「タンデムマス等の新
技術を導入した新しい新生児マススクリーニング体制の確立に関する研究」平成19年度総括・
分担研究報告書 117-121, 2008
4)Ogawa S et al.: Venepuncture is preferable to heel lance for blood sampling in
term neonates, Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed 90: F432-F436, 2005

【添付ファイル】


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