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小児内分泌専門家の医師(聖徳大学児童学部児童学科教授 原田正平先生)のコラムや、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)をはじめ小児科関連に関する情報やサービスを掲載します。

しろうジャーナル No.49から転載_『新生児マス・スクリーニングをもっと知ろう』

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2012年09月16日(Sun) 13:50 by drharasho

次の文章を、  しろうジャーナル No.49 に書かせて頂きました。

第49号・2012年9月15日配信
一般社団法人 知ろう小児医療守ろう子ども達の会 

広く知って頂くために、一部加筆して転載させて頂きました。
どうぞ多くの方々にお知らせ下さい。

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 なおここでは生後4~6日の新生児から採血しておこなう
「新生児マススクリーニング」について説明していますが、
同じ時期に行われる「新生児聴覚検査」や主に生後1か月ころから
症状(黄疸、便色が薄くなるなど)がでてくる、この4月から
母子健康手帳に綴じ込まれた「便色カード」を用いた
胆道閉鎖症の早期発見の試みも、広い意味では
マス・スクリーニングとなります。


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『新生児マス・スクリーニングをもっと知ろう』

独立行政法人 国立成育医療研究センター研究所室長 原田正平

なぜ今改めて「知ろう」なのか
 
 8月24、25日に東京都千代田区の学術総合センターで、
第39回日本マス・スクリーニング学会学術集会が開催されました。
 
 学術集会のあとに、市民公開講座「新生児マス・スクリーニングを
もっと知ろう」を「知ろう小児医療守ろう子ども達の会」の皆さんの
ご協力もいただいて行うことができました。

 「もっと知ろう」という講座名にしたのには訳があります。

 まさに「知ろう小児医療」と同じで、新生児マス・スクリーニングが十分
知られていないからです。

 学会が39回を数えることからも分かるように、日本での新生児
マス・スクリーニングは最近はじまったものではありません。

 学会が「代謝異常スクリーニング研究会」として発足した数年後、
公的費用により新生児マス・スクリーニングが全国一斉に始められた
のは1977年(昭和52年)であり、今年ですでに35年を経過し、2010
年度までの累計で約4,200万人の赤ちゃんが検査を受け、2万人近い
お子さん達が先天性の病気を早期発見され、適切な治療により健やか
に育つことができています。

 このように、もう30年以上も日本で生まれるほとんど全ての赤ちゃんが
恩恵を受けている新生児マス・スクリーニングですが、数年前に一般
市民の方を対象としたインターネット調査を行ったところ、その認知度が
驚くほど低いという結果が得られ、専門家のほうが驚かされました。

次のURLからその結果をダウンロードすることができます。
http://www.plamed.co.jp/results/200707.html
 
新生児マス・スクリーニングって何?

 さてここまで説明してきましたが、読者の頭の中には疑問が渦巻いて
いることでしょう。そもそも「新生児マス・スクリーニング」って何?

 「新生児マス・スクリーニング」の専門家集団である日本マス・スク
リーニング学会のホームページには、次のように書かれています。

 「本会は、多数集団の、生体に由来する検査材料を解析することにより、
疾患の早期発見を推進し、早期治療、発症予防、病状改善、追跡調査
などに資することを目的とする。」 

 ますます疑問符でしょうか。

 マスは「集団」を意味し、スクリーニングというのは「篩い分け」という
意味があります。学会のホームページから引用すると「スクリーニング
検査は、正常児の中から、治療可能で、かつ放置すれば心身障害を
引き起こす病気を持っている子どもを早期発見・早期治療を行い、障害の
発生を予防する目的で実施されます。」となります。

 新生児マス・スクリーニングは、医学・医療を大きく二つに分けた、
病気やけがになってからの「治療医学」と、ならせないようにする
「予防医学」では、後者の予防医学の重要な一分野になります。

新生児マス・スクリーニングの実際

 具体的には、生まれて4~6日目(生まれた日を日齢0として、日齢
4~6)の赤ちゃんの踵(かかと)を微量採血用穿刺器具(諸外国では
クイックヒールランセットといった専用器具が使われています)を使って
ちょっと傷つけて、微量な血液を採取して、特別に作られた採血用ろ紙
に滴下します。

 その後、日の当たらないところで水平に保って自然乾燥させ、その地域の
スクリーニング検査機関に郵送します。ちなみに「ろ紙」とは言いますが、
材料はコットン(綿花)です。

 日本の一般的な採血用ろ紙には4か所、直径11mmの円が印刷されて
いて、1つの円に対し約50μl(0.05 ml )滴下すると表面から裏面まで
十分血液がしみ通ります。その後十分乾燥させることで、1週間くらいなら
室温で血液中の成分が変化せず、適切な検査が可能であることが見い
だされたことが、新生児マス・スクリーニングを可能としたと言っても過言
ではありません。

 つまり、医療機関ごとに検査するのではなく、乾燥ろ紙血検体を郵送に
より、都道府県や指定都市あたり1か所の検査機関に送ることで、検査
費用をかけずに、精度の高い検査を迅速にできることが、新生児マス・
スクリーニングの鍵だからです。日本では現在、40数カ所の検査機関で
検査していますが、エジプトでは国内1か所の検査機関で行っている
そうです。

どんな病気を検査するの?

 ただ、どんな病気でも新生児マス・スクリーニングの対象になるかというと、
そうではないことは、これまで述べてきたことからも分かるでしょう。

 つまり・・・
1)生まれてすぐか生後数か月以内に発病し、適切な治療が行われないと
重大な後遺症を残したり、命に差し障るような病気で

2)「適切な治療」があり

3)乾燥血液ろ紙を用いた、精度が高く、安価に、迅速に、大量に処理できる
検査法があり

4)数万人に1人以上くらいの頻度で生まれ来ることが分かっている病気
ということになります。
  日本では1992年以降は、6つの病気が上に述べた条件を満たすとして
検査対象となり、国内であればどこで生まれても検査を無料で受けることが
できました(採血料は分娩施設ごとに違っています)。

新しい新生児マス・スクリーニングが始まっている

 しかし、昨年3月末、東日本大震災で日本中が大混乱しているさなか、
厚生労働省から一つの重要な通知が都道府県と指定都市宛に出されました。

これによって、これからは生まれた自治体によって「検査対象となる病気の
数が異なる」のですが、その事実を多くのお母さんやお父さんを知りません。

 その通知は次のURLからダウンロードすることができます。
http://kodomo-kenkou.com/pku/default/file_download/420
  タンデムマス法という新しい検査法を使うなら、十数種類の病気を新たに
新生児マス・スクリーニングの対象としても良いという通知ですが、タンデム
マス法を採用するかどうかは自治体が判断してよい、ということだったからです。

 例えば先行していた札幌市では、2005年4月から試験的に開始し、2010年
8月から事業化(公費による検査と言うことです)しています。神奈川県では
2011年10月から、東京都では2012年4月から事業化されましたが、未だ
全国的には検査を受けられない赤ちゃんのほうが多いのが実情です。

赤ちゃんの命の格差を無くしましょう?!

 このような検査の地域格差、もっと言えば赤ちゃんの健康格差、命の格差が
できてしまったのは、最初に述べたように、新生児マス・スクリーニングの重要性
が、大人達に知られていなかったためだと、やっと専門家も気づきました。

 この文章をメルマガに書かせて頂いたのも、その反省があったからです。

 「知ろう新生児マス・スクリーニング」のためにも、この情報を多くのお母さん、
お父さん、そして全ての日本国民に届けて下さい。

 転載大歓迎です。


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