福島県民の健康管理はオールジャパンで - 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科長・山下俊一氏に聞く◆Vol.4

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2012年03月01日(Thu) 11:23 by drharasho

現・福島県立医科大学副学長の山下俊一先生のm3.comの連続インタビュー
(2011年7月)。Vol.3までしか転載していませんでした。
Vol.4, 5 を転載します。

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福島県民の健康管理はオールジャパンで -

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科長・山下俊一氏に聞く◆Vol.4
(m3.comに登録が必要)http://www.m3.com/iryoIshin/article/138642/

広島、長崎の知恵生かす、最終責任には国にあり

2011年7月8日 聞き手・まとめ:橋本佳子(m3.com編集長) 

「住民の健康調査は、長期間のフォローが必要だが、国が責任を持って
取り組む必要がある」と山下俊一氏は強調する。

 ――今はリスク・コミュニケーションの時期であり、それが今後も続く。

 最初は、「ワンボイス、シングルボイス」。私や高村先生(『福島県
放射線健康リスク管理アドバイザーとして - 長崎大学大学院医歯薬学総合
研究科教授・高村昇氏に聞く』を参照)など、少数の人間が同じことを言う
ことが大事でした。今後はチーム、あるいは学術団体などが同じスタンス、
同じ基準で話をし、住民と接していく。これが今から求められることです。
長期戦になりますから。


 学問的には、「広島、長崎、福島」というのは、歴史に残る。かたや原爆
の災害、一方は原発の災害。お互いが連携、協調する。低線量の放射線の環
境の中で生活し続けることの管理は、国が責任を持って取り組む必要があり
ます。

 ――5月末に、福島県民約200万人を対象に健康調査を実施する方針が示さ
れました。

 福島県民健康管理調査検討委員会が設置され、私が委員長を務め、検討し
ています。国からはいろいろ言われましたが、約200万人の全福島県民を対
象にしないと納得は得られないでしょう。

 ――福島県の今年度補正予算では、健康調査の費用として約38億円しか計
上されていません。これで約200万人の健康調査は可能なのでしょうか。

 その通りです。本来は県が国に上げて、中長期的に取り組むべき課題です
(編集部注:国は2011年度第2次補正予算で、1000億円規模の健康管理のた
めの基金を設立することを検討)。私はそれについて何かを言える立場にあ
りませんが、医学的にどんな対応をすべきかについては提言していきます。

 ――具体的にはどんな調査を実施するのでしょうか。

 今週の土曜日に(編集部注:6月18日)、福島県民健康管理調査検討委員
会の第2回の会議を開催し、聞き取り調査の内容をはじめ、骨子をまとめる
予定です。

 今回の場合は、将来の発がんリスクが問題になります。放射線を外から
浴びた時の発がんリスクと、内部被曝の発がんリスクを分けなければいけ
ない。一番のリスクは放射性ヨウ素による内部被曝なのです。つまり、小児
のがん。そのための課題は二つ。第一は、被曝線量をいかに正しく評価する
か。第二は、どの病気にターゲットを絞って検証するか。
その両方とも、
我々はチェルノブイリで取り組んできました。

 ――被曝線量を正しく評価するには、レトロスペクティブに見る必要が
あります。

 その通りです。行動調査を行い、「いつ、どこにいたか」を把握し、
「SPEEDI」(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)による環境
中の外部線量を基に計算するやり方があります。もう一つは、避難者を対象
に1次スクリーニングしているわけですから、実際に測定したデータがある。
そうした方々の行動から、逆算して計算する。ただし、すべてこれらは推計
値であり、時には相当の誤差が出ます。

 これもチェルノブイリで経験していますが、線量の評価は何年もかかるの
です。あくまで、シミュレーションなので。

 なお、あまり言われていませんが、放射線の本当のリスクがある方々は多
くはありません。母集団は非常に小さいため、何年追っても、なかなか疾患
の発症頻度に差は生じないでしょう。
しかし、それでも誰かがきちんとタク
トを振り、責任を取らなければいけません。

 研究者が興味を持つテーマでもないでしょう。出るかどうか分からない
放射線の影響を、誰が責任を持って30年追うかという問題です。


 ――追跡期間は少なくても30年になりますか。

 普通は「がん年齢」にならないと、がんにはならない。チェルノブイリは、
異例でした。放射性ヨウ素の内部被曝による影響が出た。今回は食物の流通を
制限していますから、それはほぼ無視できると思います。この点を踏まえても、
甲状腺の被曝線量の高い人たちは限定されてくるわけです。


 ――水素爆発が起きた時に、原発の周囲にいた方々でしょうか。

 そうです。なぜ国が「計画的避難区域」を設定したかがキーポイントです。
福島第一原発から半径20km圏内の人は、3月12、13日までに避難していますか
ら、ほとんど被曝していません。20kmから30kmの間にいた方々。これらの
人に対する被曝線量の再評価は、重要です。


 ――今、ホールボディーカウンターで体内放射線量を測定して、分かるこ
とはあるのでしょうか。

 直後に測定すればよかったのでしょう。しかし、もう3カ月経っています
から、放射性ヨウ素はゼロ。セシウムが検出されるかどうかですが、バック
グランドレベル、ほとんど無視できるレベルだと思います。

 ――ではその時の被曝レベルを推定する方法はないのでしょうか。

 尿などを検査する方法はあります。ただし、まだ研究段階の手法ですが。

 ――また先ほど、「どの病気にターゲットを絞り、検証するか」という課
題もあるとお聞きしました。甲状腺がんが中心になるのでしょうか。

 そうだと思います。甲状腺がんは頻度が高い疾患。小児の白血病は10万人
に1人程度の発症率ですから、それだけの母集団がないと分かりませんが、
甲状腺疾患は100人に一人。被曝線量が層別化できれば、甲状腺がんとの関
係を把握しやすいでしょう。

 ――その辺りを今週の土曜日(6月18 日)に議論する。

 はい、専門家はごく一部ですから、ワーキンググループなどで検討を進め
ることになると思います。

 ただ、先ほども言いましたが、放射線による健康影響はすぐに出るもので
はありません。しかも、「自然の発がんのリスクを少し押し上げる程度のリ
スク」というのが、広島、長崎のデータ。だから、放射線の影響だ、とはな
かなか言えない。しかし、やはりリスクはゼロとは言えない。だから、不信
と不満が生じ、皆が「放射線恐怖症」になっている。リスクがゼロでなけれ
ば、きちんと補償、管理をしなければいけない。繰り返しますが、これは国
の責任だと思います。


 そこでなぜ広島、長崎が福島に応援団を送るか。それは我々のノウハウを
生かさないといけないからです。しかも、短期戦ではなく、長期戦。だから、
今回のように、立ち上げのお手伝いをする。もう一つは、マンパワー、予算、
拠点の確保。今、福島ではマンパワーが不足しています。平時の診療体制し
かなかったところに、エキストラのことをしなければならなくなった。その
ためのオールジャパンの体制を作るのが、我々の仕事です。


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