甲状腺専門医としての説明責任が重要

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2012年03月08日(Thu) 23:33 by drharasho

[2012年3月8日(VOL.45 NO.10) p.28]
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtnews/2012/M45100281/

第54回日本甲状腺学会

甲状腺専門医としての説明責任が重要


 福島第一原発事故で国民が関心を寄せる問題の1つが,小児の甲状腺がんであることから,甲状腺の
専門医による適切な説明が求められている。大阪市で開かれた第54回日本甲状腺学会(会長=関西医
科大学第二内科・西川光重教授)の専門医教育セミナー「東日本大震災対応による放射線防護と甲状
腺疾患」(座長=福島県立医科大学器官制御外科学・鈴木眞一教授,同大学・山下俊一副学長)では,
座長の山下副学長が臨床現場での説明責任には科学的知見による根拠に基づくことが重要と訴えた。

15歳未満の発がんリスクは100mGyから


 広島,長崎両県の原爆被ばく者疫学調査では,外部被ばく時の年齢が20歳までは線量に比例して晩発
性の発がんリスクが増加し,40歳以上ではリスクが消失することが分かっている。さらに15歳未満の被
ばくでは100mGy(≒100mSv)から線量に比例して増加し,特に5歳未満でのリスクは大きいが,20歳以上
では増加が見られない。過剰リスクについては,被ばく時から15〜19年後に最大となるが,40年後にも
認められる(Ron E, et al. Radiation Res 1995)。

 原爆被ばく者の年齢別相対リスクでは,20歳未満の固形がんリスクは500mSv超の高線量で高い結果
である。しかし,500mSv以下の被ばくではリスクが小さく,対照群(5mSv未満)との差はどの年齢層
でも見られなかった(表)。山下副学長は「低線量では小児も成人も発がんリスク差は見られない」
との見解を示した。



胎児被ばくの甲状腺がん発症割合 チェルノブイリ原発事故で0.09%


 続けて,チェルノブイリ原発事故の前後に生まれた小児の甲状腺がん比較調査の結果を紹介した。
それによると,胎児期に被ばくした小児が甲状腺がんを発症した割合は0.09%(2,409人中1人)だ
った。事故当時0〜3歳で,放射性物質に汚染されたミルクなどを飲んだ小児内部被ばくの例では,
0.49%(9,720人中31人)であった(Shibata, et al. Lancet 2001; 358: 1965-1966)。

 ただ,福島第一原発事故の規模と汚染状況はチェルノブイリを大きく下回るため,山下副学長は
「福島で被ばくしても,被ばく量は極めて低い」と前置きした上で「これまでの疫学調査や大規模
スタディによって,初めて科学的根拠による発がんリスクの説明が成り立つ」と強調し,いたずら
に国民の不安をあおる情報のはんらんを懸念した。

 原発事故による放射線被ばくでは,科学的根拠に基づく問題とは別に,被ばくに対する恐怖や
トラウマなど精神心理的影響や複雑な社会的要因などが大きいことが特徴的とも指摘した。一度
の被ばく量が1,000mSv以上から急性放射性障害であり,100〜4,000mSvでは被ばく線量に比例して
発がんリスクが上がるものの,同副学長は「今回の原発事故では,幸いにもこのレベルの被ばくは
一般住民にはないだろう」と述べた。世界ではイランのラムサールやブラジルのガラパリ,中国の
陽江など1年で浴びる自然放射線量が3〜10mSvの地域を挙げ,年間自然放射線量が4mSv以上のインド
・ケラーラ州でも地域住民の健康リスクに上昇は見られないことを強調した
(Nair, et al. Health Phys 2009; 96: 55)。

あいまいな知識の流布に警鐘


 放射線の生物学的影響はDNAの切断から始まる。2本鎖のDNAが単鎖切断にとどまれば元通りに
修復され,生物学的な影響は出ない。しかし,一度に浴びる放射線量が多ければ2本鎖とも切断
され,修復不能で細胞死につながったり,突然変異で発がんや遺伝的影響を招いたりする。山下
副学長は,理論上は一度に25mSvを浴びると細胞内の核の2本鎖が1カ所切断される可能性が出て
くるが,放射線防護基準はさらなる安全のために極めて厳しい規定であることを解説した。

 同副学長は現在,202万人の福島県民を対象に放射線被ばくによる健康管理事業を行っている。
最後に「メディアの誤った解釈と報道が大きな混乱を呼ぶため,あいまいな知識を流布させては
いけない」と警鐘を鳴らした。続けて「低線量被ばくで唯一の問題は発がんリスクであり,通常
の検診を強化し,がん対策をしっかりと行うことが甲状腺の専門医に課せられた責務」

と呼びかけた。


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