空港の全身ボディースキャナーによる放射線照射は安全か

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2011年03月30日(Wed) 05:14

放射性物質による被曝の恐れに関して、参考になりそうな記事です。

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[2011年3月29日]

空港の全身ボディースキャナーによる放射線照射は安全か
長期的照射の人体への影響を検証
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 テロ対策を強化する米国では近年,空港の保安検査で金属探知機に代わり全身ボディー
スキャナーが導入されている。全身が“透視”されるというプライバシーの問題が注目さ
れる一方,全身ボディースキャナーの一種である後方散乱X線検査装置の人体への影響も
懸念される。この問題を取り上げた2つの論文がRadiology(2011; 259: 6-102011; 259: 12-6
に掲載された。

一般旅行者は“安全”,常連旅行者や航空関係者は“用心”



 米運輸保安局(TSA)は現在,金属探知機に代わる保安検査機として2種類の全身ボディー
スキャナーを米国内の空港で導入している。1つは,人体が発する微量のミリ波を検出する
方式を採用したミリ波パッシブ撮像装置で,人体に害はない。もう1つは,後方散乱X線検査
装置で,
微量のイオン化放射線が照射されることから,長期的に被ばくすることで人体への
影響が懸念される
。また,ミリ波装置が3次元画像を得られるのに対し, X線装置では3次元
情報を収集するため1回の検査で後前方向および前後方向の両方向から放射線が照射される。

 1つ目の論文を執筆したニューヨーク・コロンビア大学メディカルセンターの
David J. Brenner氏は,「個人リスク」と「集団リスク」との両面から考察した。

 X線装置で被ばくする1回当たりの放射線量(後前方向および前後方向を合わせた数値)は
約1μSv
と,健康被害リスクが高まるとされる5〜 125mSv(5,000〜12万5,000μSv)より
はるかに数値は低い。この数値からリスクを推測することは非常に困難だという。

 そこで同氏は,米放射線防護測定審議会(NCRP)などが定める放射線被ばくによるがん死亡
リスクは1Sv(1,000mSv=100万μSv)ごとに5%上昇するというガイダンスに当てはめ,個人
リスクの最適推定値を割り出した。その結果,1回の旅行で1μSvの放射線を2回被ばくすると
想定したときのがんの生涯死亡リスクは年間約1,000万人に1人だった。

 さらに同氏は,空港を頻繁に利用する航空関係者や常連旅行者についても考察。それによる
と,年間240〜380回,X線装置で検査を受ける国内添乗員の場合は年間300μSv,200回以上搭乗
する常連旅行者では年間200μSvの放射線をそれぞれ被ばく。これらの人たちのがんの生涯死亡
リスクは年間約10万人に1人だった。

 一方,同氏は集団リスクについても検討した。X線装置が毎年10億回行われたと仮定して,
上記の個人旅行者1人が負うがんによる生涯死亡リスク1,000万分の1をかけた。その結果,
100人の旅行者が1,000万回に1度の割合でがんを発症することが予測された。

「正当性」「最適化」「制限」を含めた明確な達成目標を

 別の論文を書いた, NCRPのDavid A. Schauer氏は,医療処置における放射線被ばくを例に
挙げ,後方散乱X線検査装置における取り扱いに明確な達成目標を掲げるべき,と訴える。

 一般にイオン化放射線被ばくの98%はX線撮影などの医療診断によるものであり,そこで
被ばくする放射線量は上昇傾向にある
という。米国人の場合,1980年代初頭と比べ,2006年
の医療処置によるイオン化放射線被ばく量は7倍以上に増えている。

 NCRPによれば,こうした背景にはX線撮影などが時として医療者側に有利に働き,必ずしも
患者の利益に結び付いていない場合もあるという。そこで,各関係組織などが医学画像にお
ける放射線防護において連携して対策を講じている。このことから同氏は,空港のX線装置の
導入においても,(1)コストや人体への悪影響をしのぐ「正当性」,(2)放射線量を可能
な限り最小限に抑えたシステムの「最適化」,(3)1人当たりが被ばくする放射線量の「制限」
 —を含め,明確な達成目標の必要性を唱えている。

 2つの論文で両執筆者は,ミリ波パッシブ撮像装置を推奨する。その理由として,コスト
および機能が後方散乱X線検査装置と同等でありながら,ミリ波装置がイオン化放射線を照射
せず人体に無害であることを挙げる。しかしながら,平均的な旅行者であれば,X線装置によ
る放射線被ばくの人体への影響を深刻にとらえる必要はない,と結論付けている。

 なお,NCRPはX線装置による1回当たりの放射線被ばく量について,0.1μSv以下を厳守する
よう提言している。この数値は高度3万フィート(約1万m)上空を飛行中に機内で浴びる2分
未満の放射線量とほぼ同じ。ちなみに,平均的な米国人が自然被ばくする1年間の放射線量は
 3mSv(3,000μSv)。


(松浦 庸夫)


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