知っておきたい「災害時」医療費の特別措置 被災者はどこまで無料で医療を受けられるか

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2011年04月07日(Thu) 12:05

これも大事な情報です。

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【第158回】 2011年4月7日 早川幸子 [フリーライター]

知っておきたい「災害時」医療費の特別措置
被災者はどこまで無料で医療を受けられるか


 東日本大震災の発生から、まもなく1カ月を迎えようとしている。

 今回の震災は、マグニチュード9.0という史上最大の地震が発生し、東日本の太平洋沿岸
一帯が大津波に襲われた。被災地域が広範囲に渡ったことから、いまだ十分な支援が行き
届かずに厳しい避難所生活を続けている人も多いだろう。こうした不自由な暮らしの中で、
心配なのは被災者の健康状態だ。

 津波や地震によるケガや病気だけではなく、慣れない避難所生活で持病を悪化させたり、
インフルエンザなどの感染症などで体調を崩す人も多くなる。また、被災から時間が経過す
るとともに心理的な不安を訴える人も増えてくるため、災害時ほど医療は必要になる。

災害時は保険証や所持金がなくても
特別措置として医療が受けられる

 日本の医療制度では、自営業者は国民健康保険、おもに中小企業の従業員は協会けんぽ、
おもに大企業の従業員は健保組合、公務員は共済組合など、職業に応じて加入する健康保険
がわかれている。

 私たちが病院や診療所で診察や手術、入院などをすると、その医療機関はかかった医療費
の7割を患者が加入している健康保険に請求する。そのおかげで、患者は残りの3割を自己負
担すればよいという仕組みになっている(負担割合は70歳未満の場合)。病院や診療所で最
初に健康保険証の提示を求められるのは、その患者の医療費の請求先を確認するためなのだ。

 旅先や突然の事故などで保険証を持たずに医療機関に行った場合は、いったん医療費の全
額を患者が立て替えなければならず、あとで勤務先などを通じて健康保険から7割を払い戻
してもらう手続きをとることになる。

 しかし、今回の震災では、突然の大津波から逃れるために、着のみ着のまま逃げ出した人
も多い。当然のことながら、病院にかかるために必要な健康保険証などを持ち出す暇もなか
ったはずだ。

 こうした災害時には医療機関の受診にも特別措置がとられ、健康保険証や手持ちのお金が
なくても医療は受けられるので、体調の悪い人はお金のことは気にせずに医療機関を受診し
てほしい。

住宅が全半壊、仕事を失うなど
被害が甚大な人は医療費が無料に

 今回の震災で、医療費の特別措置の対象となっているのは、宮城県や福島県などの災害救
助法が適用されている市町村で暮らしていた被災者だ。この特別措置の対象の人は、健康保
険証がなくても氏名、住所、生年月日などを伝えるだけで、通常通りに保険診療を受けるこ
とができる。加入している健康保険がわかる人は伝えたほうがベターだが、わからなくても
医療は受けられる。手持ちのお金がなくても、3割の自己負担分の支払いも猶予してもらえる。

 さらに、災害救助法適用地域の住民で、家が全半壊したり、収入がなくなってしまったな
ど甚大な被害を受けた人は、通常時に自己負担する3割分(70歳未満)、入院時の食事代など
も免除され、無料で医療を受けられる。現在、一部負担金が免除されることが決まっている
のは、以下の6つの要件にあてはまる人だ。

ア 住宅が全半壊、全半焼またはこれに準ずる被災をした状態
イ 主たる生計維持者が死亡、または重篤な傷病をおった状態
ウ 主たる生計維持者が行方不明の状態
エ 主たる生計維持者が業務を廃止、または休止した人
オ 主たる生計維持者が失業し、現在、収入がない人
カ 福島原発被害による避難指示対象地域(第1原発から半径20㎞、第2原発から半径10㎞以内)
で暮らす人

 今回の震災は、津波によって町全体が壊滅的な被害を受けて、集団避難(疎開)をしてい
る人もいる。また、福島原発の事故の影響で強制的に避難命令が出て、住み慣れた家を離れ
ている人もいる。ア~カにあてはまる被災者の人は、罹災証明書がなくても、口頭で氏名や
住所などを伝えれば、全国どこの医療機関でも無料で医療を受けられる。また、妊産婦健診、
乳幼児健診、定期予防接種なども、これまでと同様に受けられるので、避難先の医療機関で
相談してみよう。

 病院や診療所は、患者からは自己負担分をもらわない代わりに、かかった医療費の全額
(10割)を健康保険に請求することになる。ただし、震災の混乱の中で、こうした特別措置
の内容を知らずに患者から自己負担金を徴収してしまっている医療機関もあるようだ。そう
した患者には、後日、お金を払い戻すことも検討されているようなので、領収書は大切に保
管しておこう。

 1995年1月に発生した阪神・淡路大震災のときは、当初は医療費の特別措置期間は5月まで
とされていたが、最終的にはその年の12月まで延長された。今回の震災でも、今のところは
5月末までとされているが、状況に応じて延長されるので、当面、医療費の心配はないと考え
てよい。

 ただし、無料になるのは、健康保険が適用されている治療や手術などだ。個人の希望で個
室などを利用したときの差額ベッド料、健康保険のきかない先進医療の技術料などは免除の
対象にはならない。

被災者の医療費の自己負担額のために
国は1000億円を投入する予定

 前述したように、災害救助法が適用されている地域の人でも、ア~カの6要件にあてはま
らない人は、原則的には3割の自己負担分は支払うことになっている。しかし、震災発生の初
期は、医療機関も混乱しており、「自宅が全半壊か」「生計維持者が失業しているか」など
をいちいち確認している暇はない。まずは命の確保が優先されるので、被災地の医療機関で
は所持金がない患者でも差別することなく診療にあたっている。

 厚生労働省が関係各所に出した事務連絡には、無料要件にあてはまらない人の医療費の自
己負担分は「5月末日まで支払を猶予する取扱いとする」とされている。

 しかし、自営業などが加入する国民健康保険、75歳以上の人が加入する後期高齢者医療制
度は、厚生労働省が通達した無料要件にあてはまらない人からも震災発生直後にかかった医
療費の自己負担分の集金は行なわず、健康保険が全額を支払うことを決めている。

 会社員が加入する協会けんぽや健保組合、公務員が加入する共済組合は、今のところ明確
な措置は打ち出してはいないが、1995年の阪神・淡路大震災のときは無料要件に当てはまら
ない被災者からあとで一部負担金を集金するようなことはなかったという。

 現実的に考えて、一部負担金を徴収するための追跡調査をするのは難しい。国も、医療機
関や健康保険に財政的なしわ寄せがいかないように、被災者の医療費の自己負担分を穴埋め
するために補正予算で1000億円を投じることを打ち出しているので、今回も集金は行われな
いと考えて大丈夫だろう。

 災害のときは、「亡くなった人に比べれば、ちょっと熱があるくらいなんともない」など
と体調が悪いのに我慢してしまう人もいる。しかし、そのちょっとした症状の裏に大きな病
気が隠されていることもある。甚大な災害から奇跡的に逃れた、その命を大切にするために、
まずはお金の心配をしないで医療を受け、健康な身体と心を取り戻してほしい。

 社会サービスをスウェーデン語で「オムソーリ(omsorg)」という。しかし、もともとは
「悲しみを分かち合う」「お互いを気にかける」という意味をもっているという。日本の健
康保険は、病気やケガで困っている人を国民みんなで支え合うために作られた制度で、筆者
はオムソーリの精神に通じるものがあると思っている。未曾有の大災害にあった今、その精
神が試されているのではないだろうか。

 最後に、今回の震災でお亡くなりになった方のご冥福をお祈りするとともに、被災された
すべての方にお見舞いを申し上げたい。

 地震や津波で暮らしのすべてを奪われ、愛する人や大切な人を失った方には、どのような
言葉も慰めにならないだろう。それでも、日本中の人が、被災者の方々の痛みを想像し、少
しでもその痛みを分かち合いたいと思っていることを、そしてずっと見守り続けていきたい
と思っていることを伝えたい。


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