多様な発がんリスクをどう捉えるか -

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2011年07月05日(Tue) 12:43 by drharasho

多様な発がんリスクをどう捉えるか -
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科長・山下俊一氏に聞く◆Vol.2
(m3.comに登録が必要)http://www.m3.com/iryoIshin/article/138472/

政府の情報開示のあり方には問題あり

2011年7月1日 聞き手・まとめ:橋本佳子(m3.com編集長)


「情報の不確かさが、住民の不安を招く要因になっている」
と山下俊一氏は指摘する。

 ――放射線による健康影響については、一般の方に理解されていない、
知られていない事実が多い。

 そうですね。例えば、ここに10μSv/hの放射線を出す物質があると
します。それがどのくらい体に影響があるかを計算し、イメージで示すと、
「一つの細胞に放射線がちょっと触るぐらい」。しかし、そのイメージ
を持てず、放射線が体を突き抜け、細胞に傷がたくさん付くと思う人が
多い。専門家が分かりやすい絵を描いて、説明していかなければいけな
いと思うのです。

 また医師も、無頓着、無防備で、放射線を使ってきたという一面もあ
ります。リスクよりもベネフィットが多いから。つまり、医療において
は、放射線を使う理由が正当化されていたわけです。

 これに対し、今回、問題になっているのは、全くの被害者だから。全
く便益がない。原発事故が収束して、放射線のレベルが下がることが最
低限必要。したがって、今のこの状況下で皆が不安、心配に思うのは当
然。では、何を心配しているか。一度に大量の被曝をするわけではない。
低線量の被曝が続くことにより、将来、発がんのリスクが高まるかどう
かが心配なのです。

 今、日本人の2人に1人はがんに罹患する時代。1000人いれば、500人は
がんになる。仮に100mSvの放射線を浴びたら、4、5人程度増える。これが
今、心配されている放射線のリスクなのです。ほとんどの人は、ウイルス
とか生活習慣病、タバコ、遺伝的な要因など、他の原因でがんになる。
これらのリスクを総合的にどう考えるかが、一つの問いになるわけです。
このようなリスク論は、論理的に考えないといけないのですが、やはり感
情的な側面もあり、心配、不安はなかなか払拭しない。

 本当は、まず男性が理解しないといけない。男性は40歳以上になると、
広島、長崎のデータでは、被曝による発がんリスクはない。20歳以上でも、
男性の場合はほとんどリスクが見られない。そのリスクがない男性が、
「危ない」と騒いでいる。

 私の説明の仕方も悪いのですが、女性にご理解いただくのが第一なの
です。しかし、理解できない以上は、そこにいるだけでストレスなので、
自主避難しかない。どう理解して、そこで生活するか。「リスクがゼロ
のところから、少し増えた。でも医学的にどう考えても影響がないレベ
ルです」などと言っても、「リスクがある」ということだけで、不安に
なる。

 こうした問題は、放射線に限らないと思います。環境ホルモンでもそ
うです。極めて微量なものでも心配する。電子レンジのマイクロ波によ
る発がんも心配する。タバコもそう。つまり我々の周りには、発がんの
リスクになるものが山ほどあるわけです。その中で、放射線だけを取り
除くのは、不可能。さらに言えば、私たちの体は、寄生虫と共存してい
るわけです。体内の大腸菌などもゼロにできない。しかし、我々は免疫
力などがあるために共存できる。

 同じような体のメカニズムが、放射線に対してもあるわけです。DNAの
損傷を修復する能力はすごい。細胞が分裂する時に起きるエラーを修復
する能力を持っている。それと同じことを放射線による損傷に対しても
している。しかし、こうした感覚、知識は、急に降って沸いたリスクの
状況下ではなかなか理解できない。

 ――先生は3月18日から福島に行かれています。最初の頃は、先生が持
つ知識を一般の人に伝えるために、どんな工夫をされたのでしょうか。
この3カ月間で、説明の仕方などに変化はあるのでしょうか。

 最初は、何も分からない状況だったので、火山や紫外線などに例えて説
明していました。「放射線は火山のマグマ。ボンと爆発した。近くに行く
と火傷するけれども、遠くにいれば、届かない」、「心配なのは、放射線
の降下物。火山が爆発する際、遠くにいれば、火の粉は灰になっている。
灰であれば心配要らない」という感じです。すると皆が安心する。放射線
の単位も分からない中で、細かい話はできません。

 でもそれは3月の終わりぐらいまでです。大きく変わったのは、文部科学
省が「20mSv」を出した時(編集部注:4月19日に文科省は、「福島県内の学
校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」を公表)。

 ――それまでは、「100mSv以下であれば安心」などとは言っていなかった
のでしょうか。

 「分からないから、心配しても仕方がない」、「100mSv以下は分かりませ
ん」などとずっと言ってきた。

 ――「分かりません」というのは。

 発がんのリスクは増えない。だから安心してくださいという意味です。
「ここで、すぐに大量被曝するわけではないから、大丈夫です」、「逃げ
出す心配は要りません」という話をずっとしてきました。

 ――そこで文科省の「20mSv」の基準が出た。

 ICRPでは、緊急時には20mSvから100mSvの範囲内で防護対策を取るよう
勧告しています。その一番低いところを基準にした。当然、国の言うこと
に従わないといけないから、その基準を守りましょう、という話をしたわ
けです。

 そうしたら、この20mSvは、緊急事故が収束した後の基準である「1mSv
から20mSv」の20mSvという話も出てきた。原子力安全委員会と、文科省で、
20mSvの根拠がふらついていた。私は現場にいたので、そうした話は全然
分からなかった。

 ――どこで線を引くかは、最終的には政治や行政がどう判断するかになる。

 もちろんです。私としては、20mSvは妥当だと思います。これを超えない
よう、また当然低いレベルを目指すということで、国がきちんと対応して
いる、と私は信じているのですが。

 それを市民がなかなか信じないのは、また別の要素があると思います。
情報の不確かさ、遅さが問題。しかも、悪い情報が、後から出てくる。私
も現場にいて、「なんだ、これは」と思うくらい、後から後から情報が出
るわけでしょう。


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