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▽ 先進国並みの医薬品・ワクチンを使いたいですか? ▽

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2009年09月14日(Mon) 10:24

▽ 先進国並みの医薬品・ワクチンを使いたいですか? ▽ ~副作用被害補償と訴訟の選択権を考える~ 厚生労働省大臣政策室 政策官 村重直子 ※厚生労働省の公式見解ではなく、一人の医師としての見解です。 9月7日に配信させていただきました記事ですが、最終稿前の記事を配信しており ました。大変申し訳ありません。 改めて、最終稿の記事を配信させていただきます。 2009年9月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp ------------------------------------------------------------------------------ 【新型インフルエンザワクチン、まずは量の確保を】 新型インフルエンザの重症化予防や死亡者数を減少させる可能性をもつ方法とし て、ワクチンに大きな期待が集まっています。スペイン風邪などの過去の新型インフ ルエンザと、今回の新型インフルエンザが決定的に異なるのは、ワクチンという医学 の進歩の恩恵を受けられる可能性がある点です。先進諸国は競ってワクチンを確保 しようとしています。ワクチンを接種するか否かの判断が、最後は国民一人ひとりに 委ねられるとしても、まず国として確保しておかなければ、接種するかどうかの選択も できません。政府の役割として、全国民分のワクチン確保を目指すべきと考えるのが、 国民の命を預かる公衆衛生の基本です。予算や生産量など現実の制約から、全 国民分は不可能かもしれませんが、できる限りたくさん用意すべきなのです。ところ が日本は、公衆衛生を担うはずの厚労省の医系技官が勉強不足であるために、こ の基本方針すら定まっていません。国内メーカーの生産量では最大1700万人分し かなく、全国民1億2700万人の1割強しかカバーできないのですから、当然、輸入す るしかないにもかかわらず、医系技官は、国内の小さなメーカーとの護送船団方式を 守ることに執心しているかのようです。医系技官は、輸入見込み分も合計して5300万人 分(国民の4割強)必要と発表しましたが、この数字の根拠は、なんと、妊婦など推定 されるハイリスク者の人数を積み上げた数字だというのです。これでは医系技官は専 門家とは言えず、存在意義を問われても仕方ありません。 医系技官の抵抗を押し切って、舛添要一厚生労働大臣の英断が下りました。8月 29日、遊説先の愛知県豊橋市で、「6000万人から7000万人分のワクチンは確保で きると思う。」と発言し、国民のほぼ5割分を確保できる見通しとなりました。 【ワクチンのリスクとベネフィット】 まずは量を確保する一方で、副作用のない薬やワクチンはないのですから、新型イ ンフルエンザのワクチンにも副作用リスクがあることを考えなければなりません。そ れでも、新型インフルエンザで死亡する確率のほうが、ワクチン接種後に命に関わる 副作用が起こる極めて稀なリスクより、ずっと大きいだろう、つまりベネフィットの方が 大きいと見込まれるから、世界中の専門家たちがワクチン確保に躍起となっているの です。もちろん、新型インフルエンザの致死率や、ワクチンの治験データなど、今後も 新たな情報が次々出てくるでしょうから、ワクチン接種を受けるのが良いかどうか、あ るいは接種の優先順位について、状況に応じて臨機応変に対応する必要がありま す。国民一人ひとりの判断材料や心の準備のためにも、十分な情報公開と、オープ ンな議論を続けることが重要です。 新型インフルエンザワクチンが、季節性インフルエンザワクチンと全く同じ副作用を 起こすかどうかわかりませんが、季節性インフルエンザワクチンでは、ワクチン接種と 因果関係が否定できないとされたケースは毎年2~5人(1)のようですし、接種によ って接種者100万人に1~2人のギラン・バレー症候群患者を増加させる程度です(2)。 添付文書にはギラン・バレー症候群や急性散在性脳脊髄炎(ADEM)という神経系の 病気が記載されていますが、このような重篤な副作用は極めて稀ですから、経験す る人の数は少ないでしょう。しかし、人数が少ないからと言って、社会が見捨ててよ いのでしょうか。 これまで、様々な薬害やワクチン禍を経験してきたのは、日本だけではありません。 諸外国でも様々な薬害やワクチン禍を経験し、国民が喧々諤々の議論をして、国 民みんながみんなのために接種するワクチンの副作用リスクを、社会全体で受け止 める仕組みを整えてきました。 【フランスの無過失補償+免責制度】 フランスでも、2002年以前は、患者が補償される権利は、医療側の過失がある場 合だけでした。保険会社が交渉権をもち、保険会社と患者の間で合意に至った場合 や、裁判で賠償責任が確定した場合に支払われたのです。しかしこれでは、公立病 院と私立病院の賠償金額の違い、南仏と北仏の金額の違い(約4倍)、金持ちほど高 い賠償金を得られるなど、賠償金額に大きな差があり、問題とされていました。例 外的に、ワクチンと輸血によるエイズには、無過失でも政府が支払っていました。 新たな無過失補償+免責制度設立の背景には、補償される権利を求めた被害者 団体の活動があったといいます。従来の制度における患者の権利は今後もあります が、さらに無過失の場合でも、国民全体がコストを負担する義務を負うことによって、 補償される患者の権利を認めるという、新しい概念による制度が設立されたのです。こ れによって、患者の選択肢が増えました。 補償基金が、裁判所が提示する賠償金額と同じかわずかに低い補償金額を患者に 提示し、患者はこれを受け取るか否か選択することができます。補償金を受け取る場 合には、同じ被害について訴訟しないという補償基金との契約書にサインします。補 償金を受け取ったら訴訟できない点が、免責と呼ばれる制度です。患者は補償基金 が提示した補償金受け取りを拒否した場合は、訴訟を起こすことができますが、訴 訟では、患者が訴訟費用や弁護士費用を負担しなければならず、裁判によって数年 かかって得られる賠償金額は、補償基金が提示した補償金額と同等か少ない金額(時 にはゼロ)となります。一方、補償基金の補償を受け取る手続きは、わずか1年程度 です。弁護士を雇う必要はありませんし、医学専門家へは補償基金が支払うので、 患者にとっては完全に無料で利用できる制度です。このような仕組みによって、 90~95%の患者が、裁判よりも補償基金の補償を選択しているそうです。 補償基金は、医薬品やワクチンの副作用も含む医療事故全般のうち、障害が大き いものを対象としています。ただし、定期接種のワクチン(例:子供のワクチン、医療関 係者のB型肝炎ワクチン)については、補償基金の責任で、障害の大小に関わらず、 すべての障害(例:B型肝炎ワクチン後の多発性硬化症)を補償します。また、新型イ ンフルエンザのような公衆衛生上の危機において、厚生省が多くの国民にワクチン 接種する方針(マスワクチネーション)を決めた場合も、補償基金がすべての障害を 補償します。 補償基金の財源は、毎年国会審議を経て決まる税金で賄われています。 【アメリカの無過失補償+免責制度】 アメリカには2種類の無過失補償+免責制度があります。ひとつは、1988年に設 立された、通常の医療におけるワクチンの副作用に関する制度で、この補償を受ける か、訴訟するか、自らの判断で選択できる点は、フランスの制度と同様です。この補 償を受けた場合は訴訟を起こすことはできません。財源は、対象となるワクチン一本 あたり75セントの税金による基金です。 もうひとつは、2006年から施行されている、公衆衛生上の危機に関する制度で、バ イオテロを主眼に置いているようです。厚生省長官が公衆衛生上の危機と宣言した ものへのテロ対策やワクチン等について、故意を除く不法行為責任が免責されます。 免責の対象は、製造者、配布者、計画者(地方政府等)、医療関係者等、連邦政府 など、対策に関わるほぼすべての人々です。既に、炭そ菌対策、ボツリヌス中毒対策、 天然痘対策などが対象となっており、インフルエンザ関連でも、H5N1ワクチンを始め として、H7、H9、H2、H6、H1N1ワクチン、H1N1パンデミックウイルス対策、診断機 器、個人防護具などが、この法に追加されています。補償制度もあり、医療費自己負 担分の補償、失業補償、死亡保障などが支払われますが、厚生省は最後の支払い 者なので、民間保険などの第三者による支払い分を差し引いた額となります。おそら くまだ実例がないからでしょう、財源はまだ国会を通過していないようですが、申請は 1年以内にしなければならないこととなっています。 【グローバルメーカーから見た日本とは】 一方、日本は免責制度について国民的議論をしてきませんでした。ワクチンの無過 失補償制度(3)はありますが、補償金を受け取って、さらに訴訟を提起することがで きるのです。一部には、受け取った補償金を弁護士費用の資金とすることができ、む しろ訴訟リスクが高まることを危惧する声もあります。副作用がゼロにはならないので すから、このような制度では、今後も薬害訴訟が繰り返されると考えるのが自然です。 この日本の環境を、グローバルメーカーの立場から見ると、日本にワクチンを売るこ とは、薬害訴訟を受けるリスクが高いのです。日本の薬害訴訟の歴史を見れば、メ ーカー側が敗訴すると予測するでしょう。一度、訴訟になれば、ほぼ青天井の金銭的 ダメージと、風評被害から何年も立ち直れないという、あまりに大きなダメージを負う ことになります。メーカーが、そんなリスクを冒してまで、わざわざ日本に売りたいとは 思わないでしょう。新型インフルエンザの現在の状況では、他の先進国へいくらでも 売れるのです。 新型インフルエンザに限らず、海外で使われている医薬品が日本にはなかなか導 入されないというドラッグラグ・ワクチンラグの問題は、日本に免責制度がないことが、 ひとつの大きなボトルネックとなっているのは間違いないでしょう。他にも様々な要因 はありますが、国境がないも同然のグローバルメーカーにとって、日本で販売するこ とは、免責制度が整った国で販売するよりも、薬害訴訟のリスクが高いため、積極的 に日本に導入しようとは考えないのでしょう。 その結果、日本国民は、人類が手にした医学の進歩の恩恵にあずかることができ ないのです。国民全体として、先進国並みの恩恵を受けたいのなら、その一方で少 数ながら必ず発生してしまう副作用を受けた人々を、国民全体として受け止める覚悟 があるのかどうか。副作用を受けた人々を支える観点から、現状の補償金額は十分 といえるのか。そのコストを誰がどう分担するのか。十分な補償金を受け取ったら訴 訟しないという約束は、社会全体のバランスや国民のベネフィットも考えて、日本国民 のコンセンサスを得られるのか。国民一人ひとりが考え、議論しなければ乗り越えら れない課題なのです。 【新たな歴史を作る展開へ】 薬害訴訟を受けてきた厚生労働省の歴代大臣も官僚も、免責制度に言及するのは 恐ろしくて、あるいは実現するはずがないと決めつけて、長年、避けてきました。と ころが8月26日、状況が一変しました。舛添大臣が、「新型インフルエンザワクチンに 関する厚生労働大臣と有識者等との意見交換会」で自ら直接、議論に加わった末、 「感染症法と予防接種法の改正をやりたい。免責条項と補償も入れる。」と発言した のです。日本の医療の構造を大きく変える、この発言の持つ意義がどんなに大きい か、もうおわかりいただけるでしょう。 免責制度について、日本でも堂々とオープンに議論できる環境がようやく整いまし た。様々な立場の方々から、もっともっと多くのデータや情報など、国民が議論し判断 する材料をオープンにしていただきたいと願っております。そして、一人でも多くの方 に、自分や家族の身近な問題として考え、声を上げていただくきっかけとなれば幸い です。 【参考文献】 (1)2009年8月27日 厚労省 新型インフルエンザワクチンに関する意見交換会配布資料。インフルエンザワクチンによる副作用について。ワクチン接種と因果関係が否定できないとされたもの。http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/dl/infu090828-01.pdf  (2)小鷹昌明・結城伸泰:インフルエンザワクチン接種後のGuillain-Barre症候群;神経内科、60(2):144-148,2004 (3)2009年8月27日 厚労省 新型インフルエンザワクチンに関する意見交換会配布資料。公的関与の種別・有無の背景における予防接種の比較表。http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/dl/infu090828-03.pdf  ---------------------------------------------------------------------------- 村重直子(むらしげなおこ) 厚生労働省大臣政策室 政策官  1998年東京大学医学部卒業。1999-2002年米国・ベス・イスラエル・メディカル センター、2002年国立がんセンターなどを経て2005年厚労省に医系技官として入省。 2008年3月から改革準備室、7月改革推進室、2009年7月から大臣政策室。 ----------------------------------------------------------------------------


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