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子宮頸がん予防ワクチン

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2010年09月02日(Thu) 10:47 by drharasho

予防接種に関する参考となる情報ですので、
転載しておきます。

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子宮頸がん予防ワクチン:150億円特別枠は妥当か?

東京大学医科学研究所附属病院内科 湯地晃一郎
2010年9月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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●はじめに

子宮頸がん予防ワクチンが、国民的関心を集めている。厚生労働省は来年度予算の特別枠に、
子宮頸がん予防ワクチン公費助成費用として、150億円を要求することを明らかにした[1]。150億円は、
ワクチン費用を1学年のみの中学生女子に全額助成し、半数が接種した場合の想定額に相当する[2]。
果たしてこの額は妥当なものであろうか。本稿ではこれを論じる。

●広く浅く?それとも、1学年だけに全額補助?

厚生労働省は平成23年度予算概算要求の中で、「子宮頸がん予防対策強化事業」として150億円を
要求した。8月27日開催の第12回予防接種部会資料[3]に記載された、その内訳を抜粋する。

「平成21年12月に子宮頸がんの原因であるヒトパピローマウイルス(HPV)感染を予防するワクチンが
承認・販売されたことから、ワクチン接種の対象年齢、教育のあり方などの情報を収集、分析し、10歳代には
ワクチンを接種、20歳からはがん検診を受けるという一貫性のある『子宮頸がん予防対策』を効果的、
効率的に推進する方策を検討するため、市町村が実施する事業等に要する費用の一部を新たに助成する
(補助先:市町村、補助率:定額(1/3相当))。」 

150億円の算出根拠は、同じく8月27日開催の予防接種部会の答弁内で示された。

「接種率は45%、接種回数は2.6回、対象年齢は中学1年生~高校1年生の4学年、国が接種費用の3割を助成」

である。ワクチン接種費用だけに限れば、1回接種費用を16000円、対象年齢人口を233.5万人[4]とすると、
約131億円の予算となる。子宮頸がんの啓発費用、副反応救済保険費用、接種率データ収集費用なども
含め150億円との試算は、まずは妥当なのであろう。しかし、試算根拠となった個々の数字については
議論が必要である。

まず対象年齢の問題がある。対象年齢は中学1年生~高校1年生の4学年に限られている。助成を受けら
れない現高1生、その父兄からは不満の声があがるだろう。過去にイギリス・カナダ・オーストラリアなどで
子宮頸がん予防ワクチンが導入された際には、対象外の年齢でもワクチンが接種可能となるような、追加接種
(キャッチアップ接種)を受けられるシステムが同時に準備され、ワクチンの接種率目標を達成するために
啓発なども含めた、複数年度の予算立案がなされていた(引用[2])。我が国の予算は追加接種を考慮しない
単年度予算であるため、問題がある。

次に、国の3割助成、という点である。政府は、子宮頸がん予防事業のうち、市町村が実施する費用の3割を、
市町村に対して助成するとしている。しかしながら財政状態の厳しい地方自治体においては、子宮頸がん予防に
関する事業を実施できない可能性がある。現在でも子宮頸がん予防ワクチンの公費助成に関しては地域格差が
存在するが、国の3割助成が開始され、ワクチン接種率の地域格差がさらに拡大する可能性がある。我が国の
がん検診率が低いことも併せ、将来的には子宮頸がんの発症率地域格差につながるであろう。8月27日の
予防接種部会では国の全額補助を求める議論があった。

さらに、接種費用の自己負担額について。自己負担額は接種率に大きく影響する。自己負担額がいくらだったら
接種動機が高まり、接種率が高まるのか、接種を受ける児童・父兄の意見、地方自治体の財政状況も鑑みる
必要があると考えられる。自治体の実施助成金額に関するアンケート調査では、1回のワクチン接種に相当する
12000円以上の助成を行っている自治体が、68%を占めた[5]。

最後に接種率45%の前提について。政府の試算では接種率45%の前提であるが、この接種率を超えた場合、
何らかの上積みの予算を考慮すべきである。埼玉県志木市では当初10%の接種率を予想していたが[6]、
希望者が予想を大幅に上回り、急きょ補正予算で対応しようとしている。弾力性のある予算立案が必要であり、
この点からも複数年度にわたる予算案が望まれる。ちなみに英国ではワクチン接種初年度の接種率は69%で
あった[7]。

●子宮頸がん予防ワクチンだけ優先するのか?

今回の厚生労働省の平成23年度予算概算要求では、他のワクチン(Hibワクチン、肺炎球菌ワクチンなど)は
言及されておらず、不公平だとするという意見がある。8/27の予防接種部会でこの点も議論され、ヒブワクチン、
小児用肺炎球菌ワクチンについては「(有効性・安全性を含む定期接種化について)コンセンサスは得られている」
との発言があった。これらの現在任意接種となっているワクチンについても、予防接種法の根本改正を含めた
包括的議論が必要であろう。それにより、今回の国3割助成がすべてのワクチンに対して適用されるのか、
法定接種となり全額助成となるのか、が決定される。

今回、子宮頸がん予防ワクチンのみが予算要求された理由としては、世論の盛り上がり、野党の自民党・公明党
双方とも子宮頸がん予防法案を提出予定であること、感染症に加えてがん対策の一環を担うワクチンであること、
などから、高度な政治的判断が下されたのだと考えられる。

●特別枠か、恒久化か?

最後に、予算請求の枠組みについて。今回の子宮頸がん予防に関する150億円の要求は、特別枠への申し込み
であり、暫定的、単年度、来年度限りである。しかしながら本来、本予算案は特別法の枠組みではなく、恒久化
すべきである。

厚生労働省の足立信也政務官は前述の予防接種部会で、個人的な意見だと断った上で、子宮頸がんなどを
予防するヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種は「本来、(予防接種)法に基づいてやるべきこと」との認識を
示した[8]。その上で、予防接種法の抜本改正を検討している予防接種部会での今後の議論に期待するとした。

足立政務官の発言は個人的意見と前置きされているが、我が国のワクチン行政を変える大きな一歩であり、
大英断である。心より応援し、拍手を送りたい。子宮頸がん予防ワクチンを契機にした、予防接種法の改正、
無過失保障の制度充実もセットにした議論を望みたい。

●おわりに

民主党は、自ら「Children First, コンクリートから人へ」を謳っている。厚生労働省は150億円予算を特別枠に
要求した。しかしながら財務省が本予算支出に難色を示しているとの噂もある。今後、財務省・政府との交渉を経て、
最終的にどのような予算が決定していくのかを注目していきたい。

さらには次回国会で、自民党・公明党は共同で、検診費用助成を包含した「子宮頸がん予防法案」を提出予定
である。国会での与野党攻防でも、本件は大きな論点となるであろう。


参考資料
[1] 特別枠で医師不足解消策・介護ロボなど厚労省概算要求、朝日新聞、2010/8/23
http://www.asahi.com/health/news/TKY201008260487.html

[2] 湯地晃一郎. 子宮頸がん予防のための予算規模について、MRICメールマガジンVol. 264 2010/8/17
http://medg.jp/mt/2010/08/vol-264.html#more

[3] 厚生労働省 第12回厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会 資料5-3(2010/8/27).
ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンに関する論点整理(案)(PDF)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000ojc2-att/2r9852000000ojgs.pdf

[4] 日本の人口統計
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E4%BA%BA%E5%8F%A3%E7%B5%B1%E8%A8%88

[5] 厚生労働省 第12回厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会 資料(2010/8/27).
5-3ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンに関する論点整理(案)(PDF)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000ojc2-att/2r9852000000ojgs.pdf

[6] 日経がんナビ2010年3月号 ワクチン全額助成で子宮頸がんゼロを目指す
志木市・長沼明市長インタビュー http://cancernavi.nikkeibp.co.jp/report/100302_01.html

[7] Department of Health. Annual HPV vaccine uptake in England: 2008/09
 http://www.dh.gov.uk/prod_consum_dh/groups/dh_digitalassets/@dh/@en/@ps/documents/digitalasset/dh_111676.pdf

[8] 子宮頸がんワクチン接種は「法に基づいてやるべき」―足立政務官. Yahoo!ニュース, 2010/8/27,
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100827-00000017-cbn-soci

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今回の記事は転送歓迎します。その際にはMRICの記事である旨ご紹介いただけましたら幸いです。
MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp


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