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帝京大学病院院内感染事案における捜査開始を受けて

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2010年09月07日(Tue) 20:01 by drharasho

また医療現場に「捜査」が入りました。
専門家による問題点の整理をご紹介しておきます。

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帝京大学病院院内感染事案における捜査開始を受けて

医師・弁護士 大磯 義一郎
2010年9月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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1 序

9月3日、帝京大病院は、多剤耐性アシネトバクター・バウマニに同病院入院患者46名が感染し、
感染との因果関係が否定できない死亡患者が9名いると発表した。そして、報道によると
「警視庁捜査1課が業務上過失致死の疑いもあるとみて、医師ら病院関係者らに対し任意の
事情聴取を始めたことが6日、捜査関係者への取材で分かった。」
(産経ニュース2010年9月6日http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/100906/crm1009061152004-n1.ht)とのことである。

本稿においては、本件における法律上問題となる点を指摘することで、論点整理をしたい。

2 直接かつ具体的な行為の特定

本件は、業務上過失致死の疑いとのことであるので、まず、第一に問題となるのが、一体誰の
具体的などの行為によって、当該患者に多剤耐性アシネトバクター・バウマニが感染することとなったかを
明らかにしなければならないということである。すなわち、当該患者が、多剤耐性アシネトバクター・バウマニに
よって死亡したことが明らかになったとしても、それは、菌が患者を死亡させたというだけであるので
(菌を逮捕するなら別だが)それだけでは意味がない。そして、そのことは、院内感染であったか否かには
関わらない。なぜなら、当該菌の存在した場所が院内であったというだけだからである。

重要なことは、誰の直接かつ具体的な行為によって、当該患者に感染したかである。院内感染による
患者死亡が業務上過失致死傷罪として有罪となった事案として以下の三件がある。

(1) 2000年に起きた事案。看護師が、未滅菌のガラス製注射器を滅菌済みと誤認し、その注射器を用いて
点滴混注を行ったところ、70歳女性患者がセラチア菌により死亡した。看護師二名が業務上過失致死にて有罪。

(2) 2002年に起きた事案。看護師が、へパロック用のへパリン加生理食塩水を作り置き、病棟に常温で
保存したため、セラチア菌に感染し6名の患者が死亡した。病院長が業務上過失致死にて有罪となった初の事例。

(3) 2008年に起きた事案。(2)同様、作り置きの点滴を経由してセラチア菌に感染し19名が死傷。
院長が業務上過失致死傷罪で有罪。

これらから明らかなことは、院内感染について、業務上過失致死傷罪が成立するためには、患者が感染に
至った直接かつ具体的な行為がこのレベルで明らかとならなければならないのである。

本件において、これから捜査が進むこととなるのであろうが、このレベルでの行為が存したのかが第一の争点となる。

3 その行為が刑事における注意義務違反といえるか

次に問題となるのは、当該具体的行為に注意義務違反があったかである。これについては、先の(1)は
明白なエラーが存在しているパターンであり、(2)は、1999年、2000年とセラチア菌院内感染による死亡事案が
あり注意喚起がなされている最中で発生した事案(前2件は立件されていない)であり、(3)に至っては、
(2)事案により有罪判決が出ているにもかかわらず、同態様の過失行為で発生した事案あった。

この三件から、刑事罰を科されるほどの過失態様とは、このレベルが必要であることが認められるのであるから、
本件においても2において認めた行為が同程度の注意義務違反といえるかがが第二の争点となる。

4 おわりに

本件における、捜査が、記者会見後わずか3日後に始まるという異例なスピードで行われたことには
驚きを隠しえない。福島大野病院事件においてさえも(当時の社会的情勢ですら)、事故調査委員会
報告書公表から約1ヶ月後に捜査が開始されたのである。

ただ、この機会を好機ととらえ、院内の自浄作用を発揮し、トカゲのしっぽ切りのような事故報告書でなく、
医学的に適切な報告書を作成することを警察、検察に示すことが、ひいては、医師の自律に
つながるものと考えることもできる。

いずれにせよ、本件の事案の解明は始まったばかりである。

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今回の記事は転送歓迎します。その際にはMRICの記事である旨ご紹介いただけましたら幸いです。
MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp
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