女性と子どもをタバコの害から守るには女性と子どもをタバコの害から守るには(2011年 春号 掲載)

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2012年01月17日(Tue) 01:19 by drharasho

もう1年近く前のHappy Note 2011年春号に寄稿した文書の元原稿を載せておきます。

掲載された文書は、少し短くなっています。
・女性と子どもをタバコの害から守るには(2011年 春号 掲載)
http://www.happy-note.com/doctor/026-028.html

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女性と子どもをタバコの害から守るには

世界の現状

 春になりインフルエンザの流行も峠を越えた頃ですが、2年前の春は、世界中が
「新型(豚)インフルエンザ」の大流行(パンデミック、pandemic)が起きることを恐
れていました。その時、世界の医療者の先頭に立って対策を指揮していたのが、
WHO(世界保健機関)のマーガレット・チャン(Margaret Chan)事務局長でした。

 WHOは世界の国々と連携して、世界的な規模の健康障害の原因を取り除くことを
使命とした国際的組織ですが、そのWHOが主導した公衆衛生分野における初の
国際条約のことは、日本国内ではあまり知られていません。それは「たばこの規制に
関する世界保健機関枠組条約(英語略称、FCTC)」です。FCTCは2005年2月27日に
効力が発生し、2011年1月末現在、世界の172の国と地域が加わっています。もちろん
日本も国会で承認し、条約を守る義務を国として負っています。

 WHOは毎年5月31日を世界禁煙デーとしてタバコ対策を進めていますが、今年
2011年のテーマを“The WHO Framework Convention on Tobacco Control”その
ものとしました。世界中でもう一度、FCTCの重要性を考え、タバコ規制のために行動
しようという意味があります。 

 WHOが本格的にタバコ対策に乗り出したのは、チャン事務局長の2代前の、
奇しくも同じ女性事務局長であったグロ・ハーレム・ブルントラント(Gro Harlem
Brundtland)さんの時代(1998~2003年)で、ブルントラントさんは女性として初めて
ノルウェー首相に就任した方です。元々は小児科医であり、WHO事務局長になった
時の就任演説で、“Tobacco is a killer. ”(タバコは殺人者)という有名な言葉を使い、
タバコ対策をWHOの重要な使命と位置づけました。その演説の中ですでに、
“Children are the most vulnerable. Habits start in youth. The tobacco industry
knows it and acts accordingly. ”、つまり、(タバコに対しては)子どもが最も脆弱で、
習慣性は若いときに始まり、タバコ産業はそのことを知っていて行動する(子どもを狙う)

と述べ、タバコ対策には、子どもを守るのがなにより大事であることを宣言しました。

 さらにWHOは、女性をタバコの害、タバコ産業から守ることにも力を注いでおり、2010年
の世界禁煙デーのテーマを“ Gender and tobacco with an emphasis on marketing to
women”( ジェンダーとたばこ~女性向けのマーケティングに重点をおいて~)とし、その
集大成として“Gender, women, and the tobacco epidemic”(ジェンダー、女性とタバコの
流行)という報告書を発行しました。その報告書には、世界の女性の死の原因の6%が
タバコ関連であり、もしタバコ消費を減らす努力をしなければ、20歳代女性の死は2004年
の150万人から2030年には250万人に激増すると書かれています。

日本の現状

 女性と子どもが危険な状態にあるのは、なにも遠い外国の話だけではありません。
タバコ産業が狙っているのは子どもであり、女性、特に若い女性であることは、そこかし
このタバコの宣伝、広告を見れば誰しもが分かることです。「大人たばこ養成講座」と
銘打ちながら、街にあふれる大看板は若者、女性向きのものばかりです。

 なぜ「女性と子ども」を狙うのか。それはタバコを止められなくなる最大の原因である
「ニコチン依存症」が、喫煙開始年齢が若ければ若いほど、そして男性より女性喫煙者
ほど短期間で始まり、そして離脱できなくなるということをタバコ産業が知っているからです。

 日本では不可能なことですが、欧米では法律で未成年者の喫煙そのものが禁止
されていないためもあってか、12~13歳を対象群として、月喫煙者(月に1回でも喫煙
する)になってから、どれくらいの期間でニコチン依存症の症状が現れるかという研究
(2002年)が米国で行われています。最初の1本の喫煙から月喫煙者となるまでが平均
486日、しかし、それからが早く、ニコチン依存症の症状が現れるまでは、男子で中央値が
183日、女子ではなんと21日でした
(中央値というのは、100人対象者がいた場合、50人
目に症状がでるまでの期間です)。

 このようにタバコ産業に狙われた若い女性が、短期間でニコチン依存症になってしまう
結果として、日本の若年妊産婦の喫煙率は驚くほど高率で、全年齢層でも妊娠前の
22.9%から妊娠中に9.9%まで低下するものの、再喫煙率も高く、子どもが生後6か月
時点で17.4%まで上昇していると報告されています(大井田、2002年)。

もしあなたが喫煙者なら

 FCTCは日本では、受動喫煙防止の面だけが報道されることが多く、その本当の
意味はあまり知られていませんが、第三条にその目的として、「タバコの消費及び
タバコの煙にさらされることが健康、社会、環境及び経済に及ぼす破壊的な影響から
現在及び将来の世代を保護する」と明確にうたわれています。また日本学術会議
という日本を代表する科学者、学者の集団が「脱タバコ社会の実現に向けて」という
要望書を国に提出しています(2008年)。このように国内外は、タバコの無い社会
(無煙社会)作りに大きく舵を切っています。

 2010年、インドネシア(FCTCに参加しておらず、今や世界一の喫煙大国)から
衝撃的な映像が世界に向けて送られました。2歳の男の子が喫煙する姿でした。

 「タバコは嗜好品」「吸ってる大人は格好がよい」そんな言葉がタバコ産業の虚言
でしかないことを、一番良く現わしている映像だったのではないでしょうか。まさに
「(タバコに)吸わされている」姿でした。大人の喫煙者であっても、同じように「吸わ
されている自分」の姿を客観的に眺める機会になったのではないかと思います。

 スモーカーズフェイス(喫煙者顔貌)という言葉があります。女性は短期間でニコチン
依存症に陥り易いだけでなく、男性より喫煙の害が外見に現われやすいという二重に
不利な条件を持っています。10年後、20年後の自分の姿を想像したとき、実は、今が
止め時であることに気がつくのではないでしょうか。

妊娠中の禁煙補助剤による治療は禁忌とされていますが、止めたいという強い動機が
働くため、薬剤無しで半数以上の方が禁煙に踏み切ることができます。授乳中も薬剤は
使いにくいですが、お子さんのことを考えれば、禁煙するには最も重要な時期です。
禁煙外来がお近くにあればそこで相談し、もしなければ、かかりつけの小児科医が相談
に乗ってくれることと思います。お子さんの健やかな成長のためにも、まずあなたの周り
から無煙社会作りを始めましょう。


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